ストレスとは
ストレスとは、環境によって心や体に負担がかかっている状態のことをいいます。
特に、ストレス要因(ストレッサーということもあります)により、心や体に負担のかかった状態(ストレス)がおき、これがいろいろな反応や症状をおこし(ストレス反応)、長期にわたると健康問題にかかりやすくなると考えられています。
参考までに、ストレス要因、ストレス反応、ストレスによる健康問題の例をあげておきます。
ストレス要因 |
仕事の忙しさ、人間関係、経済的困難など。異動や昇進など急な環境の変化もストレスの原因になることがあります。 |
ストレス反応 |
いらいら、不安、ゆううつなど。動悸、ふるえ、腹痛や下痢、心拍や血圧の上昇など。 |
ストレスによる健康問題 |
高血圧、心臓病、糖尿病、消化器疾患などの身体の病気。うつ病などの精神的病気。けがや事故。 |
ストレスとうまくつきあうことは、あなたの健康や充実した生活にとって大事です。
よいストレス・悪いストレス
ストレス要因の程度が、自分で対処できる範囲であったり、自分がこれを挑戦と受け止めて主体的に対応できる場合には、達成感や自分自身の成長などよい結果につながることもあります。
ストレス要因が強すぎて心や体がうまく反応できない場合や、 そのストレス要因が自分にとってつらい、嫌なものと認識された場合には、強いストレスが発生します。
脳とストレス
最近の研究では、ストレスとは脳の機能が一部低下した状態であると考えられています。
慢性的にストレス要因に暴露していると、前頭葉という大脳の一部分の機能が低下してきて、そのため変化や刺激に対してうまく対応できず、心や体が過剰に反応してしまうことがわかってきました。
ストレスに対して、毎日の工夫やストレス対処法により、前頭葉の機能を保つこと、また機能低下から回復させることがストレスへの上手な対応方法といえるでしょう。
ストレス解消に役立つ豆知識
では、ストレスを減らすにはどうすればいいのでしょうか。
次は、日常生活でストレス解消に役立つ豆知識をご紹介します。
ストレス解消に役立つ豆知識では、科学的根拠の強さを三段階で示しています。
「高」
「中」
「低」
興味のある項目をクリックしてください。
(1) 睡眠
科学的根拠:高
日本人の5人に1人が睡眠に問題を抱えています。十分な休息をとれないことがストレスの原因となっていることもあります。 「睡眠によい習慣」を実行することで、あなたの眠りを改善することができます。
リズムをつくる
休日も同じ時刻に起きる |
休日だからといって遅くまで寝ていると、翌日に定刻に起きるのがつらくなります。 |
就寝時刻1時間前からベットタイムとする |
寝る1時間前から照明を落として横になりましょう。 |
朝の仕事はテキパキこなす |
多少の眠気は振り払い、毎朝決まったパターンで行動することで、身体と頭が目覚めリズムが戻ります。 |
30分以上の昼寝を避ける |
眠気解消に短い昼寝は効果的です。しかし、あまり長く取ると夜眠れなくなります。また、午後3時過ぎの昼寝も夜の睡眠を妨げます。 |
寝る前にリラックスする
寝る前のカフェイン、アルコール、ニコチンは避ける |
カフェインは脳を覚醒させます。睡眠に問題がある場合は昼間も取りすぎに注意しましょう。タバコのニコチンも同様に取りすぎに注意しましょう。せめて寝る直前の喫煙は避けましょう。アルコールをとると睡眠がかえって浅く短くなってしまいます。 |
2時間前から静かにすごす |
就寝前の2時間はリラックスタイムとしましょう。毎日同じ事を同じように行うことでリラックスしやすくなります。 |
ぬるめのお風呂にゆっくり入る |
温まったあとに体温が下がると眠くなります。就寝の1~2時間前にゆっくり入浴するとリラックスもでき、ちょうど寝るころに眠気がきます。 |
同じ時間に夕食、寝る前に大食しない |
食事を同じ時間にとることで、就寝に向けてのリズムを整えます。また、寝る前に大食すると何時までも消化されず、リラックスできません。 |
静かで暗く適温の心地よい部屋で寝る |
家具やインテリアも工夫して、寝室を一番リラックスできる場所にしましょう。 |
積極的にリラックスする |
緊張を感じたら、肩の力を抜く、深呼吸を2~3回行うだけでも、緊張をやわらげる効果があります。 |
睡眠に対する考え方を変える
睡眠時間の長さにこだわらない |
睡眠は時間より質が大切です。睡眠時間にこだわると、かえって眠れなくなってしまいます。 |
無理に眠ろうとしない |
眠ろうと緊張するほど眠れなくなります。次の日にしっかり眠れば悪影響はありません。 |
考え事は明日にのばす |
気がかりなことや心配事はメモにとって、明日にのばしましょう。 |
寝室では寝ることを最優先する
眠くなってからベッドに行く |
眠くないのにベッドに入り眠ろうと努力するとかえって目が覚めてしまいます。 |
ベッドと眠ることを条件づける |
ベッドは眠るためだけに使う。読書、テレビ、食事をしない。 |
15分程度寝付けなかったら、起きて眠くなるまで待つ |
別な部屋に行き、静かに過ごし、眠くなったらベッドに戻ることを繰り返す。夜中に目が覚めた時も同じようにします。 |
よりよい睡眠のための練習法
- 睡眠日記をつける:毎日、寝つきにかかった時間(分)、睡眠の長さ(時間)、睡眠の質(「良い」から「悪い」まで5段階)をメモしておきます。
- 上の「睡眠習慣」のうち、自分でできそうなものを3つ以内まで選んで、できるだけ毎日実行します。できない日があってもかまいません。合わない習慣を選んだ場合には途中で変えても結構です。
2週間ほど継続すると、寝つきにかかる時間が短くなり、睡眠の質がよくなってきます。
ただし、以下のような病気の場合には、病院に行くことをお勧めします。
- 睡眠時無呼吸症候群:いびきが大きい、あえぎや息苦しさ、息を止めることがある。
- むずむず足症候群:ふくらはぎや足先がむずむずする 。
- 周期的な四肢運動障害:睡眠中に手や足をぴくつく。
- ナルコレプシー:日中突然眠気に襲われ寝てしまう。
- うつ病や不安障害:気分の落ち込みや不安感が強い。
(2) 食事
ビタミン – – – 科学的根拠:高
緑黄色野菜や果物を食べている人は、ストレスが低いことが知られています。ビタミンCを多くとることで、うつが改善したという研究もあります。野菜や果物を多めにとることでストレスを軽減することができる可能性があります。その他のビタミン(B1, B6, B12, D, E, 葉酸など)の効果はまだはっきりしていません。
魚 – – – 科学的根拠:中
海に面している国では、うつ病が少ないことから、魚を食べることがうつの予防に効果があるのではないかと考えている人達がいます。魚からとれるオメガ3系という油脂をとることがうつを改善できるのではという研究が進んでいます。
(3) アルコール
アルコールを控える – – – 科学的根拠:高
お酒やビールなどのアルコールをたくさん飲む人は、うつ状態が続きやすい傾向があります。アルコールを飲むとその時は気分がよくなりますが、その後かえって気分が落ち込んでしまいます。また、アルコールは眠りを浅くします。 ストレスがたまったり、気分が沈んでいる時には、アルコールを控えることがよいと考えられます。 特に、お薬を飲まれている方はアルコールと一緒に服用することは避けてください。
(4) 休日の過ごし方
休日をしっかりとろう – – – 科学的根拠:高
働いている方々にとって休日は大変貴重なものです。ストレスがたまったり、気分がゆううつな時は、まず休日をしっかりとることが大事です。
元気のでる活動をみつけよう – – – 科学的根拠:高
仕事で疲れていると、休日もぐったりして、自宅でごろごろして過ごしがちですが、さらに休日を活かして楽しんだり休んだりする時間を作ることができると効果的です。
外出する気分でない時でも外出してみると楽しいこともあります。お笑いや落語を聞くと、気分がよくなることもあります。気分がよくなったり、楽しかったことを記録してみましょう。あなたにとってストレス解消につながりやすい活動が見つかってくることでしょう。
こうした元気のでる活動を増やしたり、計画的に行うことで、気分がよくなったり、やる気がでたりすることが知られています(専門用語では「行動活性化」と呼びます)。
休日に限らず、出張の新幹線の中で音楽を聴くなど、自分なりの楽しみや元気の出る活動を見つけられると、仕事もずっと楽しくなることでしょう。
休日の過ごし方の例:お散歩・お出かけ(自然スポット、公園、動物園、水族館、遊園地、ショッピング)、癒し処へ(スパ、温泉、エステや美容院)、習い事で自分磨き、旅行、家でリラックス、etc…
(5) 音楽・入浴
音楽 ――― 科学的根拠:中
音楽は脳内の感情コントロール部位に働きかけ、人間の心に響き気分を盛り上げたり、心を鎮めリラックスさせる効果があります。音楽の心地よいリズム、メロディー、ハーモニーの調和が、人間の脳に働きかけるといわれています。
気分障害の方の治療として認知行動療法と組み合わせて音楽を聞かせると効果的だったという研究もあります。自分が好きで楽しめるものならジャンルは問わないようです。
入浴 – – – 科学的根拠:低
入浴は体を清潔にするだけでなく、神経や筋肉の緊張をほぐし、リラックス作用があります。残念ながら入浴のストレス解消効果に関する研究はありませんが、ゆっくりとお風呂に入ることは心の疲労回復、ストレス対策になる可能性があります。
寝る前に、ぬるめのお風呂にゆっくりつかると、リラックスすることで質の高い眠りが得られます。また日本には各地に天然温泉があります。疲労回復、リラックス効果を求めて、たまには温泉巡りなどもおススメです。
(6) エクササイズ
エクササイズ(運動)– – – 科学的根拠:高
運動は、ゆううつな気分を改善し、ストレスを減らす効果があります。
運動は、後ろ向きな考え方を減らし、また心配ごとから気分転換させてくれる働きがあります。仲間と行う運動では、仲間からのサポートが気持ちを明るくしてくれます。運動は、脳の中の神経伝達物質を増やして気分を良くするのではとも考えられています。
運動には、いろいろな種類がありますが、散歩、ジョギング、自転車こぎ、筋力トレーニング、チームで行うスポーツなど、ほとんど全ての運動で、ストレスを減らし、気分を改善する効果が確認されています。ストレス解消のために、できれば週3回以上の定期的な運動をお勧めします。
ただし、慣れない運動を急にはじめてけがをしたりしないように、軽めの運動からはじめましょう。またあまりに調子が悪い時に無理して運動することはやめましょう。
ヨガ– – – 科学的根拠:高
最近、ヨガがブームになっています。姿勢や呼吸を意識し、心身ともに安らいだ状態にする健康法としての効用が注目されています。
ヨガをすることで、ストレスやゆううつな気分が軽減されることが明らかになっています。
マッサージ・鍼灸・整体 ――― 科学的根拠:中
最近マッサージや鍼灸、整体等で身近に体をほぐすことが出来るようになってきました。手技や針灸、機械を用い、筋骨やリンパ経絡に働きかけて体のこりをほぐすものですが、体へのリラックス効果が心の疲労にも効果がある可能性が次第に明らかになっています。
海外の研究では熟練のセラピストの手による30分の背中マッサージ(5~6回)で、ストレスホルモンが減少し、抑うつ気分が減少することが明らかになりました。身体疾患や不安障害にも効果があることが分かっています。また古来中国の鍼灸治療のストレス軽減作用もあります。
気のバランスの乱れを鍼灸治療によって正す、というのがもともとの中医学の考え方ですが、西洋医学者たちは、脳内で不足していた神経伝達物質が鍼灸治療によって増えたことが、抑うつ症状の軽減につながったのではないか、とも推測しています。
(7) アロマテラピー
アロマテラピー – – – 科学的根拠:中
アロマテラピーは、植物や花の精油を用いて心身の健康を増進する技術で、お香やフレグランス、キャンドルやルームスプレーなどとして用いたり、蒸気による吸入やマッサージによる皮膚への浸透などがあります。
いずれも自然の香りを取り入れることでストレス解消や心身のリラックスを行います。精油の香りによって得られる安心感・快感・緊張感・覚醒感・瞑想感などにともなう情動が、心身のバランスを促すことが期待されます。
精油が脳に及ぼす効用のメカニズムとその効果はまだはっきり分かっていませんが、嗅覚を通して脳の活性に、マッサージの場合は皮膚を通して脳の活性に効果があると考えられています。軽いうつ病の方に1ヶ月アロママッサージ(1回30分、週2回)を行った結果、症状が軽減したという報告もあります。また産婦人科ではリラックス効果とストレス軽減効果のために出産前後に用いる病院が増えています。
お勧めの精油例: イランイラン・ゼラニウム・フランキンセンス・ネロリ・ベルガモット・ローズウッド・ラベンダー・クラリセージなど
芳香浴:たたんだティッシュなどにブレンドオイルを2~3滴。手軽にできて仕事の合間にもお勧めです(ブレンドオイルの例:ラベンダー20滴+ネロリ3滴+無水エタノール10ml)
アロマバス:ブレンドオイルをバスタブに入れてよく混ぜるだけ。(ブレンドオイルの例:ゼラニウム4滴+イランイラン4滴+ホホバオイルなどのキャリアオイル4ml)
(8) その他
サプリメント(栄養補助食品) – – – 科学的根拠:高
セント・ジョーンズ・ワート(英:St. John’s wort )はセイヨウオトギリソウ(Hypericum perforatum、西洋弟切草、英語では Klamath weed、Goat weedとも呼ばれる)という植物種のことを指します。
医療用としての利用記録は古代ギリシアにまでさかのぼりますが、現代医学においてセント・ジョーンズ・ワートの抽出物(おもにタブレットやお茶)はうつ病や不安障害の症状を軽減するハーブとして用いられています。
ドイツでは軽中度のうつ病に対して従来の抗うつ薬より広く処方されていますし、アメリカやオーストラリアでは軽中程度のうつ病には、抗うつ薬と同等の効果があるにもかかわらず比較的副作用が少ないことから、人気を呼んでいます。
S-アデノシルメチオニンは、活性メチオニンあるいはビタミンLとも呼ばれます。肝臓でメチオニンから合成される物質です。サプリメントとしても販売されています。一般に肝臓とうつによいといわれています。最近の研究で、うつ状態の改善に効果があることがわかりました。
これらのサプリメントは抗うつ薬との併用はできません。それ以外にも飲み合わせに注意が必要な薬がありますので服用に関しては医師に相談しましょう。
銀杏やチロシンのサプリメントの効果はまだはっきりしていません。
次に、認知行動療法について学んでみましょう!
うつうつとした気持ちの改善に対して、科学的根拠の蓄積された心理療法です。
>>セルフモニタリングとは? ー 認知行動療法の基礎 ー