いわゆる「新型うつ病」事例とは、2000年代後半から議論され始めた、従来型のうつ病を想定した「休養と服薬」を基本とした対応が奏功せず、従来型のうつ病に比べて治療や対応が困難であると言われる、うつ病または抑うつ症状を呈する事例を指します。
しかし、「新型うつ病」という言葉は医学用語ではなく、誤解を招く不適切な表現、との意見が多いため、専門家の間では、「新型うつ病」という呼称の使用を避けています。
いわゆる「新型うつ病」事例への考察としては、これまでに、ディスチミア親和型うつ病1)、現代型うつ病2)、未熟型うつ病3)、逃避型抑うつ4)、などが提唱されており、共通の特徴として、①発症年齢が若い(30歳前後)、②うつ症状は軽症の場合が多い、③自責的傾向は目立たず逃避傾向が見られる、などが挙げられています5)。
うつ病のタイプ | メランコリー親和型うつ病 (従来型のうつ病) |
ディスチミア親和型うつ病 (新しいタイプのうつ病) |
年齢層 | 中高年層に多い。 | 青年層に多い。 |
性格 | 責任感や役割意識が強く、自分を追いつめてダウンすることが多い。 | 強い自己愛と、漠然とした万能感があり、挫折に際しては他罰的傾向がみられることが多い。 |
仕事への態度 | 仕事熱心。 | 従来型のうつ病と比べると仕事熱心ではない。 |
病気への態度 | 初期には、うつ病と診断されることを嫌がる。 | 初期からうつ病の診断に協力的なことが多い。 |
薬物治療の効果 | 薬物治療への効果は良好な場合が多い。 | 薬物治療の効果は部分的。 |
経過 | 休養と服薬で軽快しやすい。 | 慢性化しやすい。長期化すると、どこからが病気で、どこからが生き方なのかわかりにくくなる。 |
注:樽味伸、神庭重信:うつ病の社会文化試論、日本社会精神医学会雑誌13巻、129-136、2005年;メディカル・トリビューン誌 2010年7月26日号を参考にした。
【引用文献】
1) 樽味伸, 神庭重信. うつ病の社会文化的試論-とくに「ディスチミア親和型うつ病」について―. 日本社会精神医学会雑誌. 2005; 13: 129-136.
2) 松浪克文, 上瀬大樹. 現代型うつ病. 精神療法. 2006; 32: 308- 317.
3) 阿部隆明. いわゆる未熟型うつ病について. 精神科治療学. 2008; 23: 985- 993.
4) 広瀬徹也. 逃避型抑うつ. 精神療法. 2006; 32: 277- 283.
5) 多田幸司. 新しいタイプのうつ病概説. こころの科学. 2009; 146: 25- 31.